私たちが靳之林(ヂン・ツーリン)著『生命之樹』(北京・社会科学出版社)の邦訳を出版したいと思い、翻訳者の岡田陽一氏に依頼して書信を送り、北京・中央美術学院宿舎楼の著者をはじめて訪問したのは、1997年7月18日でした。社会科学出版社との交渉ののち、著者と親しい遼寧省文物考古研究所名誉所長の孫守道先生がわざわざ北京に来てくださり、著者、訳者の岡田氏ともども夜行列車で瀋陽に行き、そこから専用バスで5000年前の紅山文化遺跡を中心とした見学行をしたことがつい最近のことのように、また、はるかな昔のようにも思い出されます。翌1998年12月にようやく翻訳書 『中国の生命の樹』 を出版することができました。 この本は中国の歴史民俗文化を知るうえで欠かせない重要な書物であり、高名な油彩画家である著者自身が踏査し、デッサン・ノートと写真で記録を重ね、膨大な知と思考をそそぎこんだ百科全書的な著作です。その著者に導かれて、私たちは年に一回は中国東北部から黄土高原にいたる旅をおこない、著者の認識・表現だけでなく、その人格に深く接して「老師」として敬愛するようになりました。老師は文化大革命時代と延安時代の二度にわたって迫害を受け、生死の境を越えてこられました。陝北(陝西省北部)黄土高原の農村では、老師は神様のようにうやまわれています。 重なる中国訪問のたびに、できるなら老師を日本に迎えたいとおもっていたのですが、日本にお呼びするにはそれなりの資金的な余裕がなくてはならず、どうしたらと思っていた頃、今年はぜひ日本を訪問したいといわれたのを機に、周囲の方の協力をえて実現しようと決断しました。さいわいなことに名古屋の坂田千鶴子さん(国文学)の紹介で倶進会の助成がいただけることになったため、不足する資金は友人や、かねて親交のあった大学・福祉施設に協力を得て実行委員会を組織、2005年11月6日~24日のあいだ来日、中国民間剪紙展と剪紙制作実演(靳之林夫人の文香さん、娘さんの山菊さんが実演と指導)、靳先生の講演をあわせた東京(和光大学・早稲田大学)・横浜(社会福祉法人 「SELP杜」)・京都(立命館大学)・奈良(社会福祉法人 「たんぽぽの家」)の巡回の旅をおこない、最後に長野県諏訪郡富士見町の 井戸尻考古館で日本の先史文化遺物を見学していただきました。 この実行委員会の活動報告は、立命館大学アート・リサーチセンターより、「《中国の伝統・民間剪紙芸術》と日本「装飾」のシンボリズム―装飾文化生成の原点を「世界を切り取る技」から読み解く」と題して刊行することができました。 ここでは、この報告書で割愛したメモ 「気づかなかった日中文化の底流―靳之林教授同行記」 、および報告書中に発表した私たちの活動記録(第4章) 「中国の『民間剪紙文化』に何をたずねるのか」 を紹介しておきます。なお、同報告書は非売品ですが、小社にはわずかながら予備があります。ぜひ読まれたいとおもわれる方は ご連絡ください。