随筆・小説・歌集・俳句集
若杉 慧 ワカスギ ケイ(サトシ)【著】 ISBN: [四六判上製]327p 19cm (1985-06-15出版) 定価=本体1600円+税
●老齢に達した一人の作家が、幼少年期および青春前期の経験を鮮烈に記述し描き出す家郷土の心魂への行旅。書き下ろし。 ●柳田國男は、『明治大正史―世相篇』のなかで、〈村の昂奮〉という言葉を用い、都市・町場から侵入する近代文化の、農村人への影響を描いている。「幼少年期」の鮮やかな心象世界、〈母の秘処〉を視姦したことからはじまる「青春前期」の性の懊悩、その告白的な想起の《記述》は、明治大正の転形期に成長した村の知的階層が負った〈精神的傷痕〉と〈倫理〉の暗部を、内側から私たちに語ってくれる。近代がその形成期に埋葬した共同体の深層を考えるに欠かせぬ作品である。
【主な目次】 老幼夢幻 ― 明暗の世界/鐘/流れくるひとびと/父への想い出/幼年負傷の思い出/嘘/栗栖先生/明治から大正へ/見えない世界/藤尾衛先生/曽川秀人先生/幸巴校長先生 わが病 ― 十五歳以前/師範学校時代/七谷村/大手町小学校勤務時代/神保町三ヵ月
【著者紹介】 若杉 慧(1903~1987年) 広島県生まれ。広島高等師範学校を卒業後、教職につき、瀬戸内の小島の小学校から神戸の女学校、さらに広島商船に勤務。昭和17年、「微塵世界」で文壇に登場。戦後、昭和23年に作家活動に専念するため上京、『エデンの海』、『青春前期』などを発表してベストセラー作家となり映画化もされたが、やがて、大衆文学へと押し流されてゆくことへの断念により小説から遠ざかる。自宅のあった練馬周辺の散策からはじまる野の仏への傾倒から写真撮影をはじめ、昭和33年、小林秀雄の推奨をえてグラビア印刷による写真集『野の佛』(筑摩書房)を発表、大きな賞賛をえる。石仏研究や愛好はそれまでにもあったが、これを機に 石仏 ブームがおこり、以後、『石仏巡礼』、『北条の石仏』、『野ざらしの歴史』、『石仏のこころ』、『日本の石塔』、『石仏の運命』など多くの石仏関係著作を発表。晩年はふたたび文学への志向を高め、自己資質と響きあう評論、随筆、自伝的小説の執筆へと向かい、昭和50年、『永塚節素描』(講談社)で平林たい子賞受賞。随筆集『半眼抄』もまた、幼少年期へと自己資質をたどる文学的試行であった。