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既 刊

表象交通論/列島文化の起源へ/考古学系

表紙画像を少し解説 ヒカリノシンワコウコ―ネリー・ナウマンキネンロンシュウ

●光の神話考古
 ―ネリー・ナウマン記念論集

山麓考古同好会・縄文造形研究会【編】
ISBN: 9784862090218
[B5判並製]432p 26cm
(2008-02-07出版)
定価=本体4762円+税

■日本神話と先史図像の解釈に大きな示唆を与えたネリー・ナウマンの仕事を受け継ぎ、数百点におよぶ日本縄文、環太平洋、ユーラシアの造形図像を紹介しつつ、人類原初の造形表象と神話表象の解明をめざした記念論集。

【目次】
刊行にあたって/わたしたちの人生の諸段階(ヴォルフラム・ナウマン)

Ⅰ 講演二篇 昔話、神話、先史図像における時間意識と時間観念(ネリー・ナウマン)/図像学と神話学―象徴的思考と神話的思考試論(ネリー・ナウマン)

Ⅱ 天体と身体の神話考古 五体に表された天体もしくは眼の図像―井戸尻文化と後晩期の東北日本―(小林公明)/先インダス文明期の土笛に描かれた絵(小林公明)/土器に描かれた絵画と土偶と土版と(樋口誠司)/ジョイント・マーク(カール・シュスター、松本みどり訳)/最古代の中国における光の象徴および目と見ることの意味について(カール・ヘンツェ、檜枝陽一郎訳)

Ⅲ 記紀と月神話 スサノオ・冬至の日に巫女と交わる月のシャーマン王(高良留美子)/「出雲国風土記」砕かれた縄文月神話の復元(坂田千鶴子)

Ⅳ  ネリー・ナウマン先生 略年譜、業績一覧、思い出ほか 略年譜/私の日本学/日本東北・考古の旅/ネリー・ナウマンさんの想い出(檜枝陽一郎)/私にとってのナウマン先生―秩父にて(小林道子)/ネリー・ナウマンさんとともに(五十嵐芳子)/業績一覧

Ⅴ 縄文から世界表象へ 大地界の神話・祭儀と「生まれることの図像」の系譜(島 亨)


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【書評】
新しい日本研究の方向性を提示
ナウマンの業績を記念して編まれた論文集
(谷川章雄/早稲田大学教授・日本考古学専攻)
 本書は、二〇〇〇年に没したドイツ人の日本学者、ネリー・ナウマンの業績を記念して編まれた論文集である。ネリー・ナウマンは一九二二年に生まれ、ウィーン大学で日本学・中国学・民族学の博士号を取得し、のちにフライブルク大学教授として一五年間にわたり日本学の教鞭をとった。  ナウマンの業績のなかで著名なもののひとつは、一九六三年から六四年にかけて発表された『山の神』であろう。これは日本の山の神の民俗に関する画期的な研究としてその存在は知られていたが、要約もしくは一部がとりあげられただけで、全体が紹介されぬままになっていた不遇の書でもあった。また、一九七七年に『民族学研究』に掲載された「縄文時代の若干の宗教的観念について」という縄文時代の造形や文様などの図像と日本神話を対比させて解読を試みた論文は、当時の日本の考古学にほとんど黙殺された。
 このように、ナウマンの研究は当初は正当に評価されたとは言い難かったが、一九八九年の来日に際して論文集『哭きいさちる神スサノオ』が刊行され、その後も幻の書『山の神』をはじめとするいくつかの著作が邦訳された。これによって、日本の民俗や宗教の本質にせまる鋭い洞察力にみちたナウマンの業績の一端が明らかになり、とりわけ日本神話と縄文時代の図像の研究に大きな影響を与えたのである。
 本書には、冒頭に、一九八九年に来日したときに行なわれた「昔話、神話、先史図像における時間意識と時間観念」「図像学と神話学」と題するナウマンの講演が収録されている。これらの講演はナウマンの方法と思考の核心部分をよく示したものである。
 次に、ナウマンの研究を継承した縄文時代の図像研究の論文として、小林公明「五体に表された天体もしくは眼の図像」、樋口誠司「土器に描かれた絵画と土偶と土版と」などが掲載されている。とくに、小林論文では、縄文中期の井戸尻文化から後晩期の東北地方における、眼もしくは日月を表した五体の関節の環形図像の系統が精密に明らかにされた。こうした図像解釈はナウマンの見解を受け継いでいるが、ナウマン自身が依拠したカール・シュスター「ジョイント・マーク」とカール・ヘンツェ「最古代の中国における光の象徴および目と見ることの意味について」という論文もあわせて本書に収録されており、ここで縄文図像学の系譜をたどることができるのは興味深い。
 また、高良留美子「スサノオ・冬至に日の巫女と交わる月のシャーマン王」、坂田千鶴子「『出雲風土記』砕かれた縄文月神話の復元」は、ナウマンの日本の月神話の研究をさらに発展させた論文であり、島亨の「大地界の神話・祭儀と『生まれることの図像』の系譜」は、「生の水」「光の衣」などに表象される神話をとりあげ、ナウマンの「神話考古学」の全体像を描くとともに、その位置づけを考察した長編の力作である。  本書は、日本神話と縄文図像の根底に横たわる神話的本質を鋭い直観によってつかみ出したネリー・ナウマンの仕事をあらためて評価し、その継承、発展を志すものであった。それは、日本文化に対する一元論的な認識を打ち破り、人間のもつ本質的な思考へつながる回路をもった新しい日本研究の方向性を提示しているのである。

(鶴岡真弓氏/図書新聞 2008.5.31)
「これは半世紀以上にわたって日本の記紀神話と先史造形、すなわちわが列島の古層に潜む言語表象と造形表象の双方に光を当て、ユーラシアから環太平洋地域までにわたって照応する「始原としての日本列島」をとおして人類の「存在論的思考」を探求した元フライブルク大学教授ネリー・ナウマンを記念した論集である。
 名門ウィーン大学で日本学・中国学・民族学を修め、中国人研究者との出会いから上海に赴き、第二次大戦後共産党体制下の厳しい生活ののち、出国命令で子供たちとともに祖国に戻されるが、勤務したミュンヘンの国立図書館でヘンツェ等東洋研究の著作に改めて出会い、日本の神話と考古学に没頭、研鑽を重ねた。そして生涯の最後には、原初の神話と造形に宿る心性を共にみつめようとする邦人研究者たちとの交感によって、最も理想的といえる日本学の環境に迎えられた、不世出のドイツ人女性研究者がナウマンである。
 本書はゆるやかな光の輪をつくるようなかたちで、その列島横断の調査に同行もしナウマンの思索に対峙して議論をたたかわせながら歩いた、長野県・井戸尻考古館に拠る山麓考古同好会、および言叢社の縄文造形研究会同人によって編集されたもので、各論は、本書のタイトルの元となる「生命の再生」としての神話的皮膚「光の衣」および「日月」と循環的時空をめぐったナウマン的主題をいわば天蓋として、「天体と身体」「記紀と月神話」「大地界と生まれることの図像」などを捉え、「生命の光」論の幾柱を構成している。…」

(谷川昭雄氏/週刊読書人 2008.4.25)
「本書は、日本神話と縄文図像の根底に横たわる神話的本質を鋭い直観によってつかみ出したネリー・ナウマンの仕事をあらためて評価し、その継承、発展を志すものであった。それは、日本文化に対する一元論的な認識を打ち破り、人間のもつ本質的な思考へとつながる回路をもった新しい日本研究の方向性を提示しているのである。」

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