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既 刊

●神話思考 Ⅰ 自然と人間
●神話思考 Ⅱ 地域と歴史

西洋文化の起源へ/哲学・神話・宗教系

神話思考 Ⅰ シンワシコウ 1 シゼントニンゲン

●神話思考 Ⅰ 自然と人間

松村一男 マツムラカズオ【著】
ISBN: 978-4-86209-049-2 C3014
[A5判上製]780p 21cm
(2014-03-31出版)
定価=本体6476円+税

§神話学・宗教学の現在を包括的にたぐる論考集成。

印欧語族の比較神話学から出発した著者が神話学のもつイデオロギー性に触れてみずからの研究を解体しつつ、さらなる神話思考の領野を渉猟・考察し、「世界神話学」をはじめとする神話学の地平をたぐる論考集成。

【目次】
Ⅰ 神話学の歴史と理論
1. 比較神話学の現状と展望―世界神話学; 2. 神話として神話学; 3. 神話学の成立と 現状; 4. 神話学と戦争―とくに二〇世紀の神話研究について; 5. デュメジルとエリ アーデ―神話学における歴史的解釈と類型論・構造的解釈; 6. 神話的思考―「われ われは金剛インコだ」をめぐって; 7. 現代神話学におけるレヴィ= ストロース; 8. レヴィ= ストロース『神話の論理』; 9. 宗教学における鏡としてのインド; 10. 太陽神の時代―学説史的考察; 11. 太陽神の日々; 12. 部族社会の諸神話; 13. 死の神話学; 14. 神話・イメージ・言語; 15. 原始・古代の宗教
Ⅱ インド=ヨーロッパ神話
1. 救済としての真実―古代イランを中心に; 2. ユーラシアにおける支配者誕生の神話; 3. 戦士・王権・救済―ケルト文化のインド=ヨーロッパ的諸相; 4. 戦士の誕生―アイルランド叙事詩の英雄クー・フリンを中心に; 5. 神話から民話へ―『小さなグウィヨン物語』と『タリエシン物語』における印欧語族神話要素; 6. 印欧語族比較神話学研究の今後; 7. なぜ私は印欧語族研究を止めたか
Ⅲ ギリシア・ローマ神話と聖書
1. 壷絵における顔の正面性をめぐって―ディオニュソスの場合; 2. 古代ギリシア人の深層表象―オデュッセウスの帰還; 3. 古代ギリシアの荒猟師―ディオニュソスとその眷属; 4. 古代ギリシアにおける知恵の形象―ケンタウロスのケイロン; 5. 宗教的表象の解読―ヘルメスの例を中心に; 6. 王制期ローマ宗教の再検討―宗教史の困難さをめぐって; 7. さあ狼になりなさい; 8. 比較神話学の方法論を考える―アッティス神話を例に; 9. 古代東地中海世界の洪水神話―ロスト・アークを求めて; 10. 海竜との戦い―古代オリエントにおける海の怪物イメージとその意味; 11. 浄不浄と死生観―インドと旧約聖書; 12. グノーシス神話―自然神話と創作神話; 13. 砂漠という「海」―その彼方へ向かう人々; 14. 異教のダイモンからキリスト教のデーモンへ―ダイモン崇拝の隆盛と衰退と変容; 15. 「天への道/天からの道」としてのピラミッド

【著者紹介】
松村一男(1953年~)
千葉県市川市生まれ。一橋大学社会学部卒業、東京大学大学院人文科学研究科、宗教学・宗教史学博士課程単位取得退学、UCLA、Candidate in Philosophy in Indo-European Studies、日本学術振興会特別奨励研究員、和光大学講師、天理大学人間学部教授を経て、和光大学表現学部総合文化学科教授。神話学、宗教史学専攻、日本宗教学会会員(理事)、International Association for Comparative Mythology,director

【書評】
(細田あや子氏/宗教研究 2011.3)
「本書は、神話学研究で現在最も活躍している松村氏の約30年近くにわたって書かれてきた37本という数多くの論文を、大きく3つに分けたテーマにそって構成、まとめたものである。その3つのテーマとは、Ⅰ 神話学の歴史と理論、Ⅱ インド=ヨーロッパ神話、Ⅲ ギリシア・ローマ神話と聖書、である。ここからもわかるように、Ⅰ部は神話学の学説史や、研究方法や手法など理論的論考が中心となっている。」「これに対し、Ⅱ、Ⅲ部は研究対象として言語や地域で区別した具体的な神話を取り上げながら、さまざまなテーマやモティーフの解釈が、多様なアプローチによって試みられている。」「本書冒頭に「はじめに――研究遍歴と諸論文の位置づけ」という記述があり、これまでの研究の方向性に基づき各論文がどのような関心のもと書かれているのか、また多岐にわたる考察がどのように展開してきたかについて、著者自らが説明している。それによると、大学時代にデュメジルの印欧語族三区分的イデオロギーの理論を学んだ著者は、これをきっかけとして神話研究の道に入ったという。はじめはデュメジルの比較神話学の手法によって古代ローマ宗教を研究し、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に留学してからはさらに、インド、イラン、ゲルマン、ケルト、ギリシアなど他の印欧語族諸語派の地域にも対象をひろげていく。そのころ書かれた論考は、Ⅱ部やⅢ部におさめられている。しかしながら著者は、印欧語族を研究対象とすることに疑問を持つようになる。Ⅱ部には、印欧語族の神話研究の成果と、ある時期を経てそれらに距離をおくようになった著者の研究の立ち位置の変化の過程が読み取れるのだが、学問に対する著者のスタンスが印象深い。」「以上のように、本書には神話学における理論と実践の双方に関する論考がおさめられているが、やはり「世界神話学」を紹介した最初のⅠ―1論文の今後が注目される。」「これは、人文学以外の科学領域の研究成果も取り込みつつ、地球規模で、現生人類全体に共通する神話に肉薄しようとするスケールの大きい動向であり、マックス・ミュラー以来のヨーロッパ中心主義的見方を覆すものである。上述した研究者たちは古層の共通モティーフをそれぞれ具体的に列挙しているが、それをみると生と死にかかわるものが多い。世界の起源や生物の誕生などに関するモティーフは、生命と死をどのように説明するかという人間の考察のあらわれであろう。このような「世界神話」とレヴィ=ストロースがいう意味での「神話的思考」とを関連させてみるならば、さらに深い議論となると思われる。すでにⅠ―13で著者も、そのような「神話思考」によって生み出された広範に認められる神話モデルがいずれも「死の神話」のヴァリエーションではないか、と仮説を立てている。そのとおりだろう。したがってそこから、Ⅰ―1とⅠ―13の考察を包括するようなダイナミックな議論を立てることも可能だろう。」「19、20世紀の学説史を論じた前著『神話学講義』をあわせて考えると、そこでは神話理解の要素として「自然→社会→人間」という方向があげられていた。それに対し本書のなかの、とりわけ「世界神話学」という現在進行形の研究をみると、人間の身体の遺伝子、DNA、さらに神経生物学の社会的脳の働きなどを分析しており、しかも、現生人類のはじめにまで遡る時間的距離も軽々と飛び越えて、私たちの先祖につながる共通要素が想定され、仮説としてあげられている。『神話学講義』では、自然、社会、人間というそれぞれの空間、コンテクストが強調され、空間的変化、移行が神話理解の鍵だったのに対し、本書においては、一個の人間の身体のなかにある情報が世界神話学の要素として理解されるということ、現生人類の祖にまでさかのぼるという時間的遡行という対照が印象的である。それならば、空間的ひろがりと、時間的連続性というふたつをあわせて神話理解に応用すれば、どのようになるのだろう。相互補完的といわれていた構造分析と歴史的・地域的分析もここで想起して、原型へと遡行する方向と、世界各地に多様に伝承されてゆく/物語られてゆく方向とをあわせて考察するなら、より多層的な神話理解ができるのではないかと思われる。」「本書のサブタイトルが「Ⅰ自然と人間」とあり、続刊も予想されるが、神話学と宗教史の分野を柔軟に行き来する広い領野が、学生や専門外の読者などにも身近にとらえられるような論考を今後も期待したい。」

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