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既 刊

文化人類学・民族学・民俗学・歴史人類学/美術造形・美術史/歴史系

現代日本刀の生成 ゲンダイニホントウノセイセイ
―ブッシツセイヲメグル
  ジンルイガクテキケンキュウ

●現代日本刀の生成
  ―物質性をめぐる
  人類学的研究

青木啓将 アオキヒロユキ【著】
言叢社【発行】
ISBN: 978-4-86209-073-7 C3039
[A五判上製]456p 21cm
(2019-04-25出版)
定価=本体6400円+税

●どこから来たのか「日本刀愛好者」「日本刀=刀剣女子」ブーム。「日本刀」の「存在価値」をほんとうに知りたいなら……。限られた部数の出版です。
●日本刀の「存在価値」は、その内部に立ち入った者にしか明かされない。美濃・関地域の「刀の世界」に初めて立ち入り、長年にわたる体験的調査に基づいて、現代日本刀の製作過程、生産と流通、その価値と意味の生成、それらをめぐる社会関係を描きだす。早世した著者の、畢生の博士論文。
●本書、序より〈私は、実際に刀を手に取り鑑賞する経験を交えながら、愛好者たちとより濃密に接するようになった。一見同じ刀が詳細にはこれほどまでに違って見えるのか。……その詳細な違いの見分けが、愛好者たちの楽しみや喜びはもちろんのこと、履歴、彼らの刀に見出す価値、そして、愛好者同士の、また、愛好者と製作者との関係とつながっている現実を目の当たりにした。……日本刀の製作者から愛好者へと私の視野が広がっていくなか、私は、ある製作者や愛好者から「刀の世界」という謂を耳にした。……ある者たちは、この「世界」には、「どこかこうでなければならないというものがある」という。……「刀の世界」にはどこか逸脱しがたい規範があり、また、その規範に向き合う彼らなりの「論理」があることを、あらためて思わせた。〉

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【目次】
はじめに
序章
1. 日本の鍛冶研究 1-1. 野鍛冶研究の概観/1-2. 「刀剣研究」と刀の芸術的受容の浸透
2. 文化人類学と「物質性」の問題系
2-1. 文化人類学における物質文化研究/2-2. 文化人類学における芸術論/
2-3. アルフレッド・ジェルの芸術論/2-4. 物質性が切り開く射程
3. 「物質性」を手がかりとして
4. 本論文の構成
5. 調査地および、調査方法とその概要
6. 表記について
第1章 日本刀事始め
1. 日本刀とは
1-1. 日本刀の有識者/1-2. 日本刀の区分/1-3. 五ヶ伝の台頭とその拡散
1-4. 日本刀の形態と模様の変容
2. 日本刀に歴史的に付与されてきた意味
2-1. 鑑定士と刀剣商の出現
2-2. 「相剣(そうけん)」
2-3. 「守り刀」の風習と日本刀の奉納
2-4. 「切れ味」と鑑賞美
3. 小結 ——名刀とは
第2章 日本刀の受容の近現代史
1. 明治期から昭和初期
1-1. 廃刀令の公布とその反響/1-2. 刀剣団体の結成/1-3.「正宗抹殺論」
1-4. 刀の国宝指定 ——美術教育制度と古美術保護制度/1-5. 冶金学との出会い
2. 軍刀生産期の日本刀業界
2-1. 軍刀の生産体制の整備の遅れ/2-2. 軍刀の材料供給と生産者養成
2-3. 軍刀生産の状況/2-4. 鍛錬刀と延べ刀/2-5. 軍刀に対する批判
2-6. 「帝国美術院展覧会」への日本刀の出品と排斥
3. 戦後以降の日本刀業界
3-1. 文化財保護法の制定/3-2. 美術刀剣類の定義/3-3. 刀匠の定義
3-4. 日本美術刀剣保存協会の創設と刀剣市場/3-5. 戦後以降の刀剣市場
4. 小結
第3章 日本刀の生産と流通
1. 関地域の日本刀製作者たちと日本刀の流通体制
1-1. 関地域の日本刀製作者たち/1-2. 関地域における日本刀有識者による組織
1-3. 新作刀の流通
2. 刀匠たちの担う製作過程
2-1. 工房と道具/2-2. 刀匠の担う製作工程/2-3. 製作の進め方/
2-4. 刀匠たちによる作風の選択/2-5. 目指される刀と新作刀展/
2-6. 鑑賞美と実用性の追究/2-7. 「生きていくための刀」と目指される刀
3. 研師の仕事
3-1. 研師の工房/3-2. 研磨の工程/3-3. 研磨における刀の作風への対応/
3-4. 生計と刀の価値とのはざまで
4. 小結

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第4章 日本刀の鑑賞
1. 「勉強会」とは
2. 「みのせき勉強会」
2-1. 「みのせき勉強会」とその参加者たち/2-2. 入札鑑定の一連の流れ/
2-3. 言葉と刀をつなげる
3. 実際の入札鑑定
3-1. 歴史と刀匠の移動を覚える/3-2. 視覚と触覚の相互参照/
3-3. 同然表の使用と作者の推察
4. より上位の参加者になるために
4-1. 二〇一三年六月の「みのせき勉強会」/
4-2. 入札鑑定を支える「掟」とその「例外」/4-3. 「刀の出来」をみる妙技/
4-4. 〈刀ことば〉
5. まとめ ——刀の鑑賞における分類の作法
第5章 鑑賞美の規則
1. はじめに
1-1. 「刀の出来」の「良し悪し」の整理
1-2. 「刀の出来」の表現に関する調査とその対象者について
2. 「刀の出来」の優劣の判断において依拠される刀の物理的状態
2-1. 「欠点」の有無/2-2. 「姿」の形態とその研ぎ減り
2-3. 「刃」および、刃文の「出来」/2-4. 地鉄の「出来」/2-5.「冴え」
3. 見巧者たちの求める古刀の鑑賞美
3-1. 古刀の地鉄/3-2. 地鉄に呼応する研磨
4. 個々人における見え方の相違
4-1. 自己の「スケール」/4-2. 「刀の出来」と「好み」
5. 小結
第6章 実用性に対する認識と「科学」との出会い
1. より優れた実用性を備えた日本刀の作風
1-1. 手がかりにするインフォーマントについて/
1-2. 居合用ないし抜刀用の刀の形状/1-3. 優れた実用性を備えた刀の刃文/
1-4. 優れた実用性を備える地鉄/1-5. 造りこみの有無による見解の食い違い
2. 明治期以降の軍刀生産における刀の優れた実用性に関する見解
2-1. 翻刻書にみる刀の実用性に関する見解/2-2. 明治期の冶金学/
2-3. 軍部による将校用軍刀の開発/2-4. 古刀再現の探究と造りこみ
3. 切れ味の定量化
4. 刀の実用性と鑑賞美
5. 刀の物理的な状態との連関
第7章 日本刀を想う
1. 刀に対する神聖視
1-1. 守り刀に付与される意味と作風の関係/1-2. 現代における刀の奉納
2. 個々に付与される刀に対する想い
2-1. 真贋、経済的価値を相対化させる意味付与/2-2. 鑑賞美を相対化させる事例
3. 小結
第8章 日本刀を創る
1. 古名刀を再現するための製作技法の探求
1-1. 古名刀の再現を目指す刀匠の事例/1-2. 鑑賞を通した製作技法の推察/
1-3. 作為と無作為/1-4. リスクを背負う
2. 新たな作風の開拓
2-1. ヱヴァ展の開催の経緯と概要/2-2. 作品の概観/
2-3. 「守らねばならない」こと/2-4. 「新たな」ものを求めて/
2-5. 刀匠たちに立ちはだかる壁
3. 日本刀の普及に向けて
終章 結論と今後の課題
1. 「刀の世界」のウチとソト
1-1. 〈確からしさ〉に近づく/1-2. 見巧者たちの刀の見方/1-3. 刀を手に取ること
1-4. 物質性の統制/1-5. 「刀の世界」とウチとソトの窓口
2. 物質性を捉えるために
3. 物質性から感性へ
資料編
あとがき(佐々木重洋)/青木啓将さんのこと(余語琢磨)
謝辞(青木栄兒)/青木啓将略歴・業績
参照文献/索引

【著者略歴】
青木啓将 あおきひろゆき
1979年岐阜県に生まれる。岐阜県立関高等学校、中京大学社会学部社会学科、中京大学大学院社会学研究科社会学専攻修士課程を経て、名古屋大学大学院文学研究科人文学専攻博士課程後期課程満期退学。名古屋大学大学院文学研究科博士研究員、早稲田大学人間科学学術院助手。本書論文により、名古屋大学から博士(文学)の学位を取得。 2017年1月 逝去(享年38歳)

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