トップへもどる

既 刊

表象交通論/中国文化の深層へ/ 文化人類学・民族学・民俗学・歴史人類学/ 考古学系/美術造形・美術史

中国の生命の樹チュウゴクノセイメイノキ

●中国の生命の樹
 [原書名:生命之樹]

靳 之林 Jin Zhilin ヂン ツーリン【著】
/岡田陽一 オカダヨウイチ【訳】
ISBN: 4905913632
[B5判並製函入り]485p 26cm
(1998-12-06出版)
定価=本体9500円+税

§中国諸地域文化がもつ多様性を豊富な図版とともに紹介しながら、数千年にわたって変わらない中国民衆文化の基底の生命感情と文化の流れを説き明かした「中国考古=民俗文化学」の百科事典的大著。

収録図版1400余点、4色刷・2色刷図版多数。

【主な目次】
第1章 人類の植物崇拝と中国の生命の樹
第2章 中国の原始社会の植物神崇拝
第3章 河姆渡人の太陽・太陽鳥崇拝、通天華蓋崇拝、生命の樹崇拝、水盆植物崇拝
第4章 河姆渡人から大汶口へ
第5章 民俗と民間芸術のなかの水盆〈水瓶〉生命の樹〈生命の花〉崇拝
第6章 河姆渡人、大汶口から商・周の玉器、青銅器の饕餮生命の樹へ
第7章 饕餮生命の樹から民間の鹿頭花へ
第8章 半坡人の桑山華蓋
第9章 太陽華〈華〉―廟底溝の彩陶
第11章 甘粛、青海の高原地帯の太陽崇拝
第11章 新疆から河西廻廊にかけての太陽羊角と生命の樹崇拝
第12章 殷商時代の巨大な青銅の生命の樹
第13章 戦国、両漢の扶桑樹と后羿射日
第14章 庶民文化の生命の樹
第15章 中華民族の原始宇宙観と中国建築
第16章 中国の民俗と民間芸術のなかの生命の樹崇拝の遺存
第17章 人類の生命の樹
第18章 人類の生命意識と生命の樹崇拝
用語解説(考古・民俗・神話)/中国古代遺跡地図・本書所載の主な中国地名一覧・中国新石器時代文化系統表ほか

【著者紹介】
靳 之林 Jin Zhilin ヂン ツーリン(1928年~)
中国河北省唐山市生まれ。油彩画家。47-51年、国立北平芸術専科学校、中央美術学院に学ぶ。51年、中央美術学院を卒業し、同校で教務。61-73年、吉林省芸術学院美術系で教務。73-85年、陝西省延安地区群衆芸術館美術組長、文物管理委員会副主任。85-86年、中国美術家協会陝西分会副主席。86-93年、中央美術学院民間美術系、民間美術研究室で教務、同研究室主任。現在、同学院教授、民間美術研究室主任。中国民間剪紙研究会会長。76-84年、秦始皇帝の「秦直道」の発見と、全行程1500kmの徒歩による調査をおこない、陝西省北西部の多数の仏教・道教の石窟を発見、それぞれ『秦直道』『延安石窟芸術』として発表。73-82年、延安地区の各県の農村に入り、文革中に伝承途絶に瀕した民間芸術と民間芸術家の調査をおこない、80年代の中国民間芸術運動を推進。中央美術学院では、民間芸術の教授と中国民間芸術体系の講義をおこない、同学院民間芸術系の成立をうながす。数度にわたってフランス各地で「中国民間剪紙展」「中国民間芸術展」を開催、フランスより金十字賞を受ける。2010年5月、画業の全貌(油彩画作品と膨大なスケッチ画帳など)を展示する個展を北京・国家美術館で開催、これに合わせて、画冊『靳之林現象Jin Zhilin Phenomenon』(鳳凰出版伝媒集団・江蘇美術出版社、2010年)を刊行。画集以外の著作に、『延安剪紙』(編著、人民美術出版社、1981年)、『延安石窟芸術』(編著、人民美術出版社、1982年)、『中華民族的保護神與繁栄衍之神―抓髻娃娃』(中国社会科学出版社、1989年。仏文・英文版、1989年)、『綿綿瓜瓞』(台湾・漢聲出版社、1993年)、『生命之樹』(中国社会科学出版社、1994年。日本語版、1998年が本書)、『抓髻娃娃與人類群体的原始観念』(広西師範大学出版社、2001年)、『生命之樹與中国民間民俗芸術』(広西師範大学出版社、2002年)、『綿綿瓜瓞與中国本原哲学的誕生』(広西師範大学出版社、2002年)、『中国民間芸術』(中国語版・英語版、五洲伝播出版社、2004年)がある。また、延安時代の活動を主とした伝記的著作に、張同道著『靳之林的延安』(文化芸術出版社、2008年)がある。

もどる

【書評】
(鶴岡真弓/産経新聞 1999.12)
「この書物からまず伝わってくるのは、革命と近代化のなかで美を創造する画家として、また自国の文化遺産を愛惜し蒐集する美術家として、自らの家族の喪失と再生を賭けて到達した民間美術発見の経験が、ひとつの新しい方法論を訴えていることである。激しい近代化、都市化のなか、地域の共同体が保持し続けてきた剪紙をはじめとする民間美術のもつ世界性が矮小化され、単なる地域的な懐かしい事物として愛好されるのみで、それ以上の解読可能性を拒んでしまうことに断固として異議を唱える。この理念のもとに氏は、剪紙に表現される『植物』文様・図像が、小さな民衆の美術ではなく、先史中国の農耕社会の植物信仰と切り結ぶ造形の『考古性』をもつばかりか、その造形が交流をもった地中海・中東・北方ヨーロッパなどの植物表象を共有する『世界性』をもっていることを解き明かしていく。…かつて春を待つ農村の娘としてハサミを楽しげに遊ばせた老女の剪紙の、無数に揺れる青葉は、民衆美術を壮大な視野に導く『風』をはらんでいるといえよう。…革命と近代化の歴史を歩いた中国人であればこそ、靳氏は、世界に普遍的な『生命(の樹)』論という表象に引き寄せられていったとも思えるのだ。」

(杉原たく哉氏/東方 東方書店)
「渾身の力作である。剪紙や民間儀礼のなかに「生命樹」信仰が広く存在することに着目し、先史時代から現代まで中国で根強く受け継がれてきたものであることを見抜き、膨大な資料を挙げて論証を試みる。そして、世界の生命樹信仰とその図様との共通点と相違点も洗い出している。」「氏の議論は「永遠の生命」と「生命の繁栄」への願望が「人類の基本意識」である、ということを大前提とする。それは、…共通の理念として世界に普遍的に存在する。そして、人類は古来そうした理念を単純な形象でシンボライズすることにより、考古遺物や美術品、建築意匠や生活用具のなかにに表現してきた。理念としての「生存と繁栄」は、「生命樹」や「太陽」などの「符号化された形象」で表現され、その単純な符号の形態に則って様々な別の文様や意匠を重ねることにより、図様は千変万化するというのである。」「中国の考古文物にあらわれた符号的な植物文様や生命樹図像を西アジア文化との関連で論じる研究は、……近来めざましい考古学的新発見の蓄積により、それがまた可能な時期にきたことを靳氏は本書で示している。…その考古学的成果によって緻密にあとづけ、世界の類例との比較をするだけではない。河姆渡文化に海路による西アジア文化の影響が想定できること、紀元前4000年ごろに西アジアと中国の先史文化の大融合があった可能性があること、亜字形標識は西アジアに源を発する通神符号であること、石碑の形も張騫以後に西アジアから流入したものであること、…ダイナミックな仮説も随所に織り込まれていて、読むほどに議論は刺激的である。……「符号学」という名称を冠し、生命樹図像を軸として、中国の古代から現代にいたるまでの諸図像を統合的に解釈しようと試みる。……」「フィールドワークと文献操作の両面で力業を発揮した本書は、文化史研究の在り方について、われわれに大きな問題をなげかけている。」

(松枝 到/図書新聞 1999.2.6号)
「本書のユニークな点は、こうした古代の遺物のなかにのみイメージを追ってゆくのではなく、そうしたイメージが民俗のなかにいまも豊かに息づいている事実を認めてゆく作業にある。…深い生命への意識が現代アジアに強く生きつづけていることの確認こそ、本書の根本的な願いではなかろうか。」

もどる
Copyright(C)言叢社