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既 刊

西洋文化の起源へ/哲学・神話・宗教系

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ディオニューソス ディオニューソス―バッコススウハイノレキシ

●ディオニューソス
 ―バッコス崇拝の歴史

アンリ・ジャンメール【著】
/小林真紀子 コバヤシマキコ・福田素子 フクダモトコ・
松村一男 マツムラカズオ・前田寿彦 マエダトモヒコ【訳】
ISBN: 4905913403
[A5判上製]771p+口絵図版16p 21cm
(1991-10-20出版)
定価=本体9515円+税

§ディオニューソス(バッコス)崇拝の歴史をはじめて通時的に叙述した、
古典的名著の完訳。

古代ギリシア、地中海文化の無意識を支配した暗冥なる神=ニーチェが甦らせた、神の子・イエスに先立つ恐るべき子神ディオニューソスとは何者か。

【目次】
口絵

第一章 ディオニューソスの来訪: 一、ディオニューソスの図像(前六、五世紀のアテーナイ壷絵に見られるディオニューソス/レーナイア祭用といわれる壷に見られるディオニューソス神像について;これまでの諸仮説の検討)。二、ディオニューソスと植物的性格(ディオニューソス崇拝、象徴における植物的本性の重要性)。三、ディオニューソスの前史(ディオニューソスの太古的図像と塑像/ディオニューソス崇拝拡大についての理論的素描/神の起源の可能性;エーゲ海的残存、アナトリアとの関連/ディオニューソス的植物)。四、葡萄の木の神(葡萄酒の神である前に葡萄の木の神/イオーニア世界における葡萄栽培と葡萄の木の神話/アルテミスとディオニューソス/葡萄の文明とディオニューソス的歓喜/低木栽培の諸神とディオニューソス;季節女神と優雅女神/タレイア/ディオニューソスとイオーニア社会/「種の地」と「園の地」の二種の農業信仰の対照/「非ポリス的」神ディオニューソスはドーリス精神とは相容れない)。五、アテーナイにおけるディオニューソスの公的祭儀と祭り(祭儀の神ディオニューソス/アテーナイの公的信仰におけるディオニューソスの祭儀/ディオニューソスと冬の季節/田舎のディオニューシア祭/ディオニューソス的儀礼におけるファロス/コーモス、仮面、喜劇の起源/レーナイア祭、衰退する祭儀‐アンテステーリア祭;その三日間の性格/そこで行われる儀式の太古性、複雑さ、統一性/神の荘厳な入場/女王との結婚、他界からの密使)

第二章 ディオニューソスに関する最古の証言: 一、バッコスとバッコス信者(バッコスとバッコス信者/語の起源の可能性/ホメーロスの詩におけるディオニューソス)。二、リュクールゴスのエピソード(『イーリアス』第六巻のエピソード;ディオニューソスの歴史にとっての重要性/このエピソードの儀礼的要素/このエピソードの性格と起源/それはトラーキアでの出来事ではない/ニューセーイオンとニューサイ)。三、年代決定のためのデータ(第六巻のテキストの年代決定の試み、それが比較的新しいこと/エウメーロス「エウローペー物語」のもとになったのは何か/ディオニューソス崇拝史における一つの年代的目印/リュクールゴスの伝説風逸話における先ディオニューソス的諸要素)。四、ディオニューソス伝説の一エピソードの形成に関する概観(アグリオーニア祭と追跡の伝説的主題/ディオニューソスの特徴の形成に関するマルティン・P・ニルソンの学説/この神の風貌と同様に伝説も、「先ディオニューソス的」諸要素によって構成されている)
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第三章 バッコス: 一、エウリーピデース『バッコスの信女』におけるディオニューソス的オルギア行動(エウリーピデース『バッコスの信女』とエクスタシー的ディオニューソスの祭祀の理想化)。二、エルヴィーン・ローデとディオニューソス運動の起源(エルヴィーン・ローデのディオニューソス教の起源学説への批判)。三、スキュレースの冒険(ディオニューソスの祭祀の公的開催についての古代の証言/前五世紀のディオニューソス信仰集団;スキュレースの冒険/男と女の信者;ディオニューソスの呼びかけ)。四、前四世紀のあるティアソス(ディオニューソスとサバージオス;デーモステネースの伝える小宗教集団の活動)。五、古代の地中海沿岸地域オリエントにおけるオルギア行動(古代におけるオリエントから地中海へのオルギア的祭祀の広がりに関する証言の概観/エクスタシー的ディオニューソスの祭祀のトラーキア起源学説についての批判/ディオニューソス的エクスタシーとヘブライの預言行為)

第四章 神による「マニアー(熱狂)」: 一、古代ギリシア文学および現代医学文献における憑依(オルギア行動、マニアーと憑依状態/古代ギリシア文学におけるマニアーと憑依;ヘーラクレースの狂気/リュッサによるバッコスの乱舞/サルペトリエール学派の「大発作」との比較/アイアースの狂気/イーオー/前五世紀のある医師が記述した憑依および憑依者の治療/憑依との和解)。二、現代における憑依の育成と治療―ザールとボリ(現代社会における治療方法としてのヒステリーの育成;西部および北部アフリカのボリ、アビシニアとエジプトにおけるザール/現代のマイナス的行動の諸光景)。三、古代世界におけるマニアーの治療―コリュバース的行動(コリュバースたちによる憑依/プラトーンの著作に見られるマニアー)。四、マニアーと、悲劇『バッコスの信女』(エウリーピデースの『バッコスの信女』;マニアーの前に屈した人間の理性/エウリーピデースの劇の持つ意図/エウリーピデースのディオニューソス/ペンテウス/キタイローンの場;伝承とその背景/アガウエーの狂気/この戯曲の哲学/ディオニューソス崇拝史における『バッコスの信女』の重要性)
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第五章 マイナス的行動: 一、マイナスたちの姿(マイナス的行動の諸問題/古典時代の陶器作品に見られるマイナス)。二、前五世紀のアテーナイにおけるディオニューソス崇拝の復活(アッティカにおけるディオニューソス的オルギア行動;前五世紀の刷新の信憑性)。三、山野行、バッケイア、二年周期の祭り(現代の文献学者の見たマイナス的行動;ラップの理論/古代ギリシア女性によるマイナス的行動の実践/ディオドーロスのあるテクスト/バッケイオン/二年周期による儀式の挙行/テューイアスたちとパルナッソス山の儀式/山野行と散華/バルカン地方における現代のマイナス的行動;ネステナリデス)。四、デルポイにおけるディオニューソス(デルポイのディオニューソス/ピューティアとパルナッソス山のニンフたち/アポローンとディオニューソス)。五、起源諸伝説とマイナス的行動の起源(ヘーラーとディオニューソス/マニアーの起源諸伝説;カドモスの娘たち、ミニュアースの娘たち、プロイトスの娘たち/イーオーとヘーライオンの諸伝説/マニアーと女神たちへの奉仕/マニアーと樹木崇拝/アルテミスとディオニューソス/ディオニューソスと女性の秘儀)

第六章 ディーテュランボス(聖なる輪舞): 一、エーゲ海の島々におけるディオニューソス神話と儀礼(キュクラデス諸島におけるディオニューソス/ナクソスとディオニューソス崇拝/ディオニューソスとアリアドネー/海賊との出来事)。二、文学的ジャンルとしてのディーテュランボス(イオーニアにおけるディオニューソス伝説の性格/島々におけるディオニューソス崇拝の古い形/ディオニューソスと演劇の関係に対する最初の考察;アリストテレース理論/前五世紀アテーナイのディーテュランボス/ディーテュランボス/アルキロコスとイオーニア世界のディーテュランボス/コリントスと文学的ディーテュランボスの始まり)。三、ディーテュランボスの儀礼的起源(原始的ディーテュランボスとディオニューソス崇拝/ディーテュランボスとイスラム信者集団のジクル)。四、生肉食いと八つ裂き(牛の犠牲式としてのディーテュランボス/ディオニューソスに捧げられた他の犠牲動物-生肉食いと八つ裂き/イザウィア教団の行う八つ裂きの儀)
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第七章 ティアソス(信徒団)と演劇の起源: 一、冥界のディオニューソスとその供回り(地下界のディオニューソスの問題/冥界との関係、ヘーラクレイトスの意見/幻想的な狩りの群れを導くディオニューソス/「ニュクティポロイ」/再びアルテミス/ザグレウス/ディオニューソスの観念はティアソスと切り離すことができない/ディオニューソスとその供回りの移動性/前四世紀の陶器の秘儀的絵柄)。二、シーレーノスたちとサテュロスたち、馬形のダイモーンたち(サテュロスたちとシーレーノスたち、その本来の性格/馬形のダイモーンたち/古代ギリシアにおける馬のダイモーン的象徴性/ディオニューソスのティアソスと憑依の踊り、プラトーンのある証言/サテュロスとマイナス/バッコス的踊りの性格/ニンフたちとバッコスの女たち/ディオニューソス的エクスタシー)。三、『パイドロス』のマニアーと秘儀思想(エロース的マニアーに関するプラトーンの説と『パイドロス』の神話、神話中でディオニューソス的要素のしめる部分)。四、サテュロス劇と演劇の起源(ディオニューソス崇拝とギリシアにおける演劇の起源/ミメーシスとサテュロス劇/憑依と「役柄の踊り」/再びボリとザール/サテュロス劇の起源/憑依と仮面行事/ディオニューソスとシキュオーンの「悲劇の合唱隊」)。五、ミメーシスとカタルシス (ミメーシスとカタルシス、浄めの音楽に関する古代の人たちの説/悲劇における情念の浄化/パイディア)。付記、悲劇の起源に関するいくつかの説について

第八章 神話と秘儀のディオニューソス: 一、セメレーの息子(ディオニューソスの神話/伝説圏の発展と形成/本来は自然崇拝的神話であった可能性/地母神としてのセメレー/テーバイ伝承におけるセメレー/ゼウスの息子/人間の女から生まれた神/ディオニューソス・ペリキーオニオス/イーノーとアウトノエー/セメレーの被昇天/アリアドネー/テュオーネー/ディオニューソスの生誕地とされる場所/ニューサ/「ディオニューソスの幼少期」のリビア版)。二、アレクサンドロスの競争者(「ディオニューソス譚」の作者たち/アレクサンドロスとディオニューソス伝説/ディオニューソスとインド/サマルカンドの悲劇的饗宴/アレクサンドロス側近のディオニューソス信仰/前五世紀末のディオニューソスの旅伝説/偽アポロドーロスにおけるディオニューソスの物語/シチリアのディオドーロスにおけるディオニューソスの空想的物語、アレクサンドロスとエウヘーメロスの影響による伝説の変貌/プトレマイオス三世時代のあるギリシア・エジプト的伝承/ディアドコイの時代の伝説の状態;ディオニューソスの芸人たち/デーメートリオスとディオニューソス/ディオニューソス物語のキレナイカ伝説)。三、ディオニューソスの受難(ヘレニズム時代における様々なディオニューソスと世界史/ディオニューソスの「受難」/ディオニューソス信仰と救済の諸宗教/ディオニューソスの死と復活/農耕的儀式や農耕的呪術による解釈の批判、J・フレイザー、R・アイスラー/ディオニューソスとオシーリス/フィルミクス・マーテルヌスにおけるディオニューソス リーベルの受難伝説/キリスト教作家や俗人作家による伝説の基本的事項/「シュンボラ」と「クレプンディア」/ディオニューソスの苦難のデルポイ伝承/クレータ伝承/ディオニューソスの解体伝説は本来は八つ裂きと無関係である/ディオニューソス崇拝にもディオニューソス自身にも結びついていない/ある典型的な入信儀礼神話)。四、ディオニューソスとオルペウス教徒(オルペウス信仰の問題点/オルペウス信仰とディオニューソス信仰/オルペウス信仰とオルペウス教徒/オルペウス信仰の文学と「グノーシス」/オルペウス信仰の文学中のディオニューソス/オルペウス信仰がディオニューソス教にもたらしたもの/ディオニューソスの生誕に関するオルペウス的伝承/ディオニューソスの受難神話の発展においてオルペウス信仰が果たした役割/オノマクリトスとディオニューソスの「オルギア」/ディオニューソスとパネース、ゼウスの後継者或いは副官/新ディオニューソス/ディオニューソス崇拝におけるメシア信仰)
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第九章 ヘレニズム社会とグレコ・ローマン時代のディオニューソス: 一、アレクサンドロス以降のディオニューソス信仰と宗教的発展(アレクサンドロス以降のディオニューソス運動と新時代の宗教的・知的風潮/私的なティアソスおよび秘儀/ディオニューソス信仰の革新、彼岸の約束と新ディオニューソス信仰の秘儀思想/「ディオニューソスの芸人たち」、彼らの宗教的・政治的役割/ヘレニズム世界、ローマ世界におけるディオニューソス教の拡がり)。二、前四世紀からのディオニューソス信仰の拡張の概観(南イタリアのディオニューソス、ディオニューソスとトラーキア/ヘレニズム時代・ローマ時代のエーゲ海の島々におけるディオニューソス崇拝/アテーナイのディオニューシアスタイ、イオバッコイ、ディオニューソス信徒団内の信心形態の革新/ディオニューソスとエレウシースの秘儀、イアッコス/デルポイとディオニューソス的普遍性、ピロダモスのパイアーン/ヘレニズム期の小アジアにおけるディオニューソス信徒団、イオーニアにおけるマイナス行動の残存)。三、ディオニューソスとヘレニズム君主たち(ディオニューソスとヘレニズム君主たち/ディオニューソス・カテーゲモーンとペルガモン王国/プトレマイオス王朝のエジプトにおけるディオニューソス教、プトレマイオス愛父王とディオニューソス崇拝/ディオニューソス、オシーリス、セラーピス、メンピスのセラーペイオンのカトコイ/プトレマイオス愛父王の宗教政策/ディオニューソスとヘーラクレース)。四、ディオニューソスとローマ世界(ローマにおけるディオニューソス崇拝の起源、パテル・リーベル/イタリア半島におけるディオニューソス的オルギア行動/バッカーナーリア事件/西暦紀元頃のディオニューソス崇拝とローマの上流社会/アレクサンドリア、ローマ、ポンペイにおける家庭内装飾におけるディオニューソス的モチーフ、「秘儀荘」とファルネジーナ庭園の館/紀元前一世紀のエジプトのディオニューソス信仰の性格と影響/ディオニューソス的帝国主義の絶頂、アントーニウスとクレオパトラーの企てにおける政治的・秘儀的要素、およびロマネスクな要素/紀元後一世紀のディオニューソス信仰の穏和化、二、三世紀におけるその再生と性格、ローマに移植されたある小アジアのティアソス、古代末期のディオニューソス教/「オルペウス」讃歌/ノンノスの詩/ディオニューソス信仰とキリスト教)

解説/あとがき/出典と参考文献/文献索引/用語索引


【著者紹介】
アンリ・ジャンメール(1884~1960年)
エコール・ノルマルで西洋古典学を修め、ティエリー財団での勤務の後、リール大学、エコール・プラティク(高等研究院)で、ローマ宗教史やギリシア宗教史を講義。著作としては、比較的寡作であるが、1939年の『クーロイとクーレーテス:スパルタの教育と古代ギリシアにおける青年の加入儀礼』、その先駆をなす1913年の論文「スパルタのクリュプティア」は、古代ギリシアの「加入儀礼」「通過儀礼」にはじめて本格的な検討をくわえたものであり、その後の同課題のたくさんの研究論文がでている現代においても、必読書としての価値をもち続けている。同様に多数のディオニューソス研究のなかでも、本書ではディオニューソス神の起源・生成からヘレニズム時代の発展・変容を通時的に辿り、キリスト教布教前夜の宗教的位相をとらえようとさえこころみるまでの徹底した研究は、その後も現れていない。

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